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みーの初期研修

お医者さん1年目の「みー」が,医学に関する知識や日々感じたことをまとめています.

治療法がない慢性疾患の外来診察の難しさ

みーの意見

とある日に,筋ジストロフィーの患者さんが過換気症候群になり来院しました.

筋ジストロフィーは徐々に筋力が低下する疾患で,根本的な治療法がなく,次第に歩行困難となり,重症ならば呼吸不全や心不全で死亡します.そのため,専門の病院で診察を受けても,今の状態を評価され,日々の生活のアドバイスだけで終わってしまうようです.そのような診察を受けることに全く意味を感じないため,最近はかかりつけの専門病院を受診していないとのことでした.

別の日に,脊柱の傍に腫瘍が指摘されているが増大しないため経過観察になっている人が同部位の疼痛を訴えて来院しました.

CT検査を行ったところ腫瘍の大きさは不変でしたが,脊柱の傍のため少し神経を圧迫しているような印象がありました.神経が刺激されて疼痛が出現したのだろうと考え,かかりつけの専門病院を受診するように勧めました.しかしながら,診察は年1回MRI検査を受けたあと外来で数時間待って,「大きさは変わらないので1年後にまた来院してください」という説明の繰り返しで,そのような診察を受けることに全く意味を感じないため,通院を中断しているとのことでした.

医者としては,疾患の増悪がないことを定期的に確認することが診察なのだと考えます.しかし患者さんにしてみれば,何もしてくれないと感じるのかもしれません.治療法がなかったり,経過観察でよい場合に外来でどこまで患者さんに寄り添ってあげられるかが,長期間の診察継続のために重要なのかもしれません.

曲げる鉗子

麻酔科 道具 由来

マギール鉗子は経鼻気管内挿管を行う時に使用する鉗子です.下の写真のように根本を曲げることで,口の中で操作をする時に視野を確保できるように工夫されています.

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根本を曲げる鉗子 → まげーる鉗子 → マギール鉗子

というのが名前の由来です.

本当は麻酔医のIvan Magill先生が発明した鉗子です.*1

重複する略語

まとめ

全く別の疾患なのに略語が同じだと,勘違いが起こり危険です.

MS

循環器内科ならば mitral stenosis 僧帽弁狭窄症

神経内科ならば multiple sclerosis 多発性硬化症

HL

多くの医者は hyperlipidemia 脂質異常症

血液内科ならば Hodgkin's lymphoma ホジキンリンパ腫

DM

糖尿病専門医ならば diabetes mellitus 糖尿病

膠原病内科医ならば dermatomyositis 皮膚筋炎

SJS

普通は Sjögren syndrome シェーグレン症候群

時々 Stevens-Johnson syndrome スティーブンス・ジョンソン症候群

フルネームで記載しましょう.

患者は見ている

気になる症例 みーの意見 消化器科

救急外来に,治療困難な段階まで進行した肝細胞癌の患者さんが救急車で来院しました.数日前から腹痛と呼吸苦が急に出現したそうです.精査した結果,肝細胞癌破裂による腹腔内出血*1を認めました.

肝細胞癌破裂は肝細胞癌の死亡原因の1つで,動脈塞栓術によって治療を行います.また,出血のためショックバイタルになっており,早急な輸液と輸血が必要な状態でした.医学的には入院して治療を行わないと数日のうちの死亡する可能性が高い状態でした.しかしながら患者さんはこれ以上の治療を望んでおらず,自宅で最期を迎えたいから今日は家に帰りたいと言いました.

患者さんに入院を希望しない理由を尋ねると,「主治医とはこれ以上の治療を行わない方針になっているから」とおっしゃいましたが,よくよく話を聞くと,「肝細胞癌の治療をしてもらったけども痛いだけで全く効果がなかった」「入院しても何もしてもらえないし,主治医が1回も来なかった日もあった」「病院の食事は美味しくない」「入院の部屋に関してトラブルがあった」など,主治医や病院に対して不信感がある様子でした.

主治医や病院に対して不信感があるのに,これ以上の癌治療は行わないという決断をすることは果たして意味があるのでしょうか.癌治療は行わないと言いながらも救急要請をしていることから,今の苦しさをなんとかして欲しいという気持ちがあるのは明らかです.また,在宅医療などの緩和ケアの導入がほとんどなされていない状態だったため,このまま帰宅しても急変してどうしようもなくなってしまうことが予想されました.最終的には,輸血を行いながら在宅医療の導入を行うために短い間だけ入院するということで納得されました.

医者として働いていると,患者さんに適切な治療をできているか不安になることが多いです.しかし,「主治医が1回も来なかった日もあった」という発言から,入院中の患者さんに「調子はいかがですか?」と毎日話をしに訪れるだけでも十分に意味があると教えてくれました.患者さんと向き合うのは時に辛いことですが,目を逸らしてはいけないのだと実感しました.

*1:肝細胞癌破裂例の治療 と予後 http://journal.jsgs.or.jp/pdf/023122757.pdf

薬は毒,毒は薬

みーの意見 代謝内分泌

インスリン製剤の量は「単位」で表します.現在市販されているインスリン製剤は,100 単位/mL に統一されているため,作用と体積が比例するために直感的です.しかしながらインスリンが発見された1920年代当時は,インスリンの生成技術が未発達で,同じ質量のインスリンでも効果が異なったそうです.インスリンの量だけでは作用を予測できないため,実際の作用に基づいた定義がなされていました.

The unit is one third of the amount of material required to lower the blood sugar of a 2-kg rabbit which has fasted twenty-four hours from the normal level (0.118 per cent) to 0.045 per cent over a period of five hours. *1

24時間絶食にした2kgのウサギの血糖値を5時間で0.045%まで低下させることができるインスリンの量の1/3と定義されたようです.つまり,ウサギが低血糖で痙攣を起こす量として定義されたわけです.

インスリンは糖尿病の治療薬として知られていますが,昔はインスリンの毒性によって量が定義されていました.インスリンは使い方によって毒にも薬にもなることを象徴しているように思います.

たかが便秘,されど便秘

気になる症例 消化器科

(便秘の話のため,お食事中の観覧はご遠慮ください.)

便秘は,酸化マグネシウムやセンノシドを処方すれば改善することがほとんどです.しかしながら,それだけでは不十分な場合が時々あります.

10年前から糖尿病の中年の男性が,便秘を主訴に来院しました.4日前の排便が最後で,便意はあるがお腹に力を入れても全く排便できず,野菜をたくさん食べたけれども排便できず,イチジク浣腸をしても排便できず,次第にお腹が張って苦しくなってきたため,耳かきを肛門から入れて掻き出そうとしたそうです.その結果,便の代わりに血が出てきたため,これはヤバイと思って来院されたとのことでした.

腸穿孔(腸に穴があくこと)の場合は緊急手術になるのですが,この患者さんは幸いにも腸穿孔はなく,直腸診(肛門から指を入れて直腸を観察すること)で巨大な便を触れたため,グリセリン浣腸を行いました.「やっと便が出ました〜」という笑顔と共に,長径25 cmはあると思われる巨大な便が出ました.長年の糖尿病による慢性的な便秘*1が疑われました.

なぜ耳かきを使おうと思ったのか?その耳かきはちゃんと捨てたのか?など,いろいろと聞きたいことはありましたが,ほっとしたような顔をされていたため,水に流すことにしました.耳かきは耳垢を掻き出すものなので,便も掻き出せると思ったのかもしれません.

直腸に異物を挿入すると,最悪の場合腸穿孔で手術をしなければならなくなります.くれぐれもお気をつけ下さい.

*1:糖尿病の合併症である末梢神経障害によって腸が正常に蠕動できなくなり便秘になるのだと考えられています.

「もう半分しかない」のか「まだ半分ある」のか

腎臓内科 インフォームド・コンセント

コップに半分の水が入っているのを見て,「もう半分しかない」と感じるか「まだ半分ある」と感じるかで,マイナス思考かプラス思考かを判断するのは有名な話です.*1

尿検査異常を指摘され,慢性糸球体腎炎が疑われている患者さんが,腎生検*2をするために入院しました.腎生検を行うメリットを患者さんが質問したところ,指導医は「腎生検を行ったからといって,原因が特定され治療によって完治すること保証することはできませんが,腎生検を行うことによって原因が特定されて有効な治療を開始できる可能性があります.治療可能である可能性が残っているのに検査をせずに治療を行わないのはとてももったいないことだと私は思います.したがって腎生検をお勧めしています.」と説明しました.患者さんは笑顔で納得されました.

まさに,「まだ半分あるよ」という意味の説明です.しかし,世の中には「もう半分しかない」と考える患者さんもいるので,最終的には患者さんが判断するべきです.インフォームド・コンセントは難しいなと感じました.

*1:https://www.pmi-japan.org/topics/cat613/19.php

*2:針で腎臓の組織を取り出す検査.侵襲性がある検査なので,インフォームド・コンセントが必要.